10年くらい前になるでしょうか。
ふと、自分だけの「ミッションステートメント」を持ちたいと考えました。遅ればせながら『7つの習慣』を読んだ影響です。色々と思うところのあった時期だったからかもしれません。
詳しくは覚えていませんが、『7つの習慣』には、いくつか「ミッションステートメント」の作り方が書いてありました。人生の最期を思い描く、……などなど試してみましたが、どうにもうまくいきません。「家族と笑ってすごす」など、誰かから借りてきたような言葉しか浮かびませんでした。自分は何と底の浅い人間なのだと悲観したような気もします。
そういうわけで正攻法(?)は諦めて、GTDによって「ミッションステートメント」を作る方針に転換したのでした。
GTDを初めて知ったときは、かなりの衝撃をうけました。そして、次のような大事な概念を教わりました。
すべての「気になること」を信頼できるシステムに預けることで、「水のような心」を手に入れる。
すぐできることは、すぐ終わらせる。
複雑な仕事(Project)は、初手何するかを考えておく。
レビューが大事!
ひとつひとつはGTD以前から言われていることなのかもしれませんが、これらの概念がなんだかすごく「合理的に」統合されている感じに、圧倒されたことを覚えています。
そんなGTDなのですが、「ミッションステートメント」作成に活用したのは、「高度」の概念でした。David Allenさんの本に「GTDで『高度』を意識することで、人生の目的も見えてくる」といった記載があったことを思い出したからです。
『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』や『ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編』で少しづつ書きぶりが異なりますが、「高度」については、概ね次のように定義されていました。
高度5000m:人生の目的/価値観
高度4000m:長期的なビジョン
高度3000m:1~2年後の目標とゴール
高度2000m:注意を向けるべき分野や責任を負っている分野
高度1000m:プロジェクト
高度 0m:次にとるべき行動
この「高度」と日々の「気になること」を結びつけることを考えました。
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この方法には、リスト型のタスク管理アプリを使いました。複雑なことはできないけれど、ごく一般的な機能があるものです。ここでいう一般的な機能とは、フォルダなどのグループ化、タグの付与、完了項目の非表示などを指します。
具体的には、次のような手順を踏みました。
日々の「気になること」をまず入れる「Inbox」のほか、「次にすることリスト」「プロジェクトリスト」「いつかやることリスト」などのグループを用意しました。
あわせて、高度2000m~5000mの内容について、それぞれタグとして用意しました。例えば「高度5000m:家族と笑ってすごす」「高度2000m:英語」などをトップダウン的に複数つくりました。この時点では、高度が高くなればなるほど、「ミッションステートメント」を考えた時の、「誰かから借りてきたような」タグになってしまっています。
いわゆるGTDの処理フローに基づき、日々の「気になること」を1.で用意したグループに振り分けていきます。
これと同時に「気になること」に、2.で用意した「高度のタグ」を紐づけました。例えば、「きのう調べた英単語をAnkiに登録」といった項目が「次にすること」に入った場合、この項目に、タグ 「高度2000m:英語」「高度4000m:論文をもっと早く読めるようになる」などを紐づけていきます。
付けるべきタグがない場合は、新たに「高度のタグ」を追加する必要がないか、既存の「高度のタグ」の表現を見直す必要はないか、そもそもその「次にすること」は本当に必要なことなのか、を検討します。
以降3.~5.の繰り返し
日々のこのフローで、ボトムアップ的に「高度」が自分のものとなっていく寸法です。
リスト型のタスク管理アプリでは、タグによる絞り込み表示でビューを変えることができました。なので、折に触れて「高度のタグ」ごとに自分が何に取り組んでいるのか、確認することができるようになりました。
そして、「高度2000m」のタグがそこそこ集まったら、より上位の「高度3000m 」について見通しが立つ、「高度3000m 」のものがそこそこ集まったら、より上位の……、そんな風にして、自分だけの「高度5000m 」(=「ミッションステートメント」)にたどり着こうと思いました。
GTDの処理フローに沿って「気になること」を振り分けていく作業(3.)は楽しいものでした。元々はアナログであったというGTDと、振り分ける作業の親和性があったのかもしれません。また、タグによる「高度」の紐づけ(4.)も初めはうまくいきました。ひとつひとつの「気になること」が、2年後の自分にとってどのような意味を持つのか、長期的なビジョンとどのように関連するのか、考えるきっかけとなりました。
そのうち、「気になること」を集めること自体に、夢中になるようになりました。
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経験豊富な方ならもうお分かりのとおり、この方法は、ほどなくして破綻しました。GTDが悪かったのではなく、よくある失敗パターンに陥ったからです。理由は色々とあげられますが、決定的なものは、「気になること」を私がはき違えたからだと思います。
脳は刺激(情報)を与えたら何かしらの反応をします。反射といっても良いかもしれません。当時の私は、これらすべてが「気になること」であると考えてしまいました。
うまく言えないのですが、GTDでいう「気になること」とは、「『水のような心』の妨げになるもの」なのではないかと思います。
最初にあげたGTDの大事な概念は、今でも私の情報処理に大きな影響を与えています。ですが、原理原則的な、狭義のGTDを現在は実施していません。「高度のタグ」についても、4000m(長期的なビジョン)くらいまでたどり着きましたが、納得のいく「ミッションステートメント」までは到達できませんでした。
当初の目論見は失敗に終わり、使用ツールも、リスト型のタスク管理アプリから、アウトライナーやMarkDown形式のテキストファイルに移ろいました。
そんな中でも、「いつかやることリスト」だけは、今もリスト型タスク管理アプリに残っています。なぜか「いつかやることリスト」をアウトライナーやMarkDown形式のテキストファイルに置いてもしっくりこないのです。
例えば、「いつかやることリスト」の中に、「気になる映画リスト」があります。
ふとした時にiPhone上で眺めてにやにやしたり、順番を入れ替えたり、項目を追加したりする趣味のリストです。もちろんこれらの操作はアウトライナーやテキストファイルでも簡単に行えます。
なので、なぜ「しっくりこない」のか不思議だったのですが、あることに気がつきました。iPhoneでアウトライナーやテキストファイルを扱うと、ワンタップで、簡単に過去に入力した項目を編集できるのです。この場合に限っては、「できてしまう」と言った方が正確かもしれません。
「気になる映画リスト」は、手動で簡単に順番を入れ替えたり、項目(映画タイトル)追加したりしたいリストです。ですが同時に、過去に入力した項目(映画タイトル)については、そんなに簡単に編集したくないリストでもあります。
リスト型タスク管理アプリでは、項目(映画タイトル)をタップ→項目の詳細画面に遷移→その後タイトルを再度タップすることで、はじめて項目名を編集できます。MarkDownのプレビューモードほど編集から離れていない、でもアウトライナーほど編集しやすくない、この中途半端さが「たまにiPhoneで眺めてにやにやする、過去に入力した項目は簡単にいじりたくない、でも項目の順番は入れ替えたいし追加はすぐしたい。完了したら非表示にしたい。けど、削除はしたくない。」という私のワガママな要求を叶えてくれていたのでした。
GTDの跡地であるリスト型のタスク管理アプリに、「いつかやることリスト」だけが残ったお話でした。具体事例としての、この感覚はあまり理解や共感はしてもらえないかと思います。
ですが、
多くの人が通ったGTD、そしてそれなりの人が味わった挫折の先に、「(あんまり共感してもらえないけれど、)自分にはしっくりくるもの」が残った事実は、大切なことではないかと感じます。
当初想定していた「ミッションステートメント」を作ることはできず、思ったとおりにはいかなかったですが、色々と試してみたことで、自分の感覚として「それはそれで良い」ものが見つかりました。
おわりに
お言葉に甘えてエッセイ(自分語り?)を書いてみました。Go Fujitaさんの一連の投稿がとても面白かったのでGTDについて書きたかったのですが、最終的にGTDとはぜんぜん関係ない話になってしまいました。
これも「思ったとおりにはいかなかったけれど、自分の感覚として、それはそれで良いものが見つかった」ということにしておきます。