『初秋』と『緋色の研究』
The Catcher in the Rye
好きな本を一冊だけ選んでほしいっていわれたら、あなたはどの本を選ぶだろうか。 哲学の本でも物理学のテキストでも、マンガでもいいし詩集でもいい。実用書でもいいし小説でもいい。自分のノートブックというのも、ありということにしても OK。 ぼくにとっての一冊は、もうずっと前から決まっている。 もちろん Raymond Carver や宮澤賢さんの詩集を選ばないことに未練がないといえばウソになるけれど、それでも胸をはって、この一冊を選ぶことにしている。 J.D.Salinger はぜんぶ好きで、にもかかわらずこれは特別。
好きな一冊だけ選んでほしいっていわれたら、さすがに無理と答えるだろうけども、自分の本棚でボロボロになるまで読み返した本を探せば、『初秋』と『緋色の研究』の二冊が見つかる。
『初秋』はロバート・B・パーカーによる探偵物のハードボイルド。スペンサーというマッチョで本を好む探偵が登場する。本作はそのスペンサーが、ひょんなことから一人の子どもを導くエピソードになっている。倉下の自己啓発成分の多くは本書から吸収したと思う。検索すればいろいろ箴言も見つかるだろう。
『緋色の研究』はいわずとしれたコナン・ドイルによる小説で、我らがホームズとワトソンの出会いを語るストーリーだ。本作ではホームズの探偵道が熱く語られていて、それが面白い。職人的というか、研究者的な「求道」の精神が感じられる。ホームズ・シリーズは基本的に何度読んでも面白い。オチや犯人が分かっていても楽しめる。その意味でミステリではありながら、別に謎解きを楽しむような作品ではない。ある意味では現代のキャラクター小説に近いものもあるが、もっと自由奔放である。
今はじめて二つの作品を並列してみたのだが(人生初だ)、どうにも「何かしらのこだわりを持って、職務をまっとうしようとしている人」というのが自分の好みらしい。あとどちらも探偵だ。謎を追う人も、自分の影のロールモデルなのかもしれない。

